人件費率の目安が業態ごとに分かれて見えるのは、業態ごとに正しい率があるからではありません。業態が違うと、平均時給と人時売上高という2つの数字が違うからです。
人件費率は、この2つの割り算で決まります。だから、よその店の率を借りてきても、自店のシフトに何人時置けるかは出てきません。
営業を締めたあと、スマホで人件費率の目安を調べると、業態ごとに20%台から30%台の数字が並びます。どれが自店に近いかを選んでも、あしたのシフトに置ける人時は1つも決まりません。
この記事では、業態別の目安が自店でずれる理由と、自店の目安を自店の実績から作る手順を、モデル店の数字で説明します。率を置ける人時に直す計算そのものは、人件費率がオーバーする原因とFL比率が下がらない原因に書いたので、ここでは短くふれるだけにします。
人件費率は、平均時給と人時売上高の割り算で決まる
先に、この記事で使う言葉を2つ説明します。
- 人時(にんじ)は、働いた人数に時間を掛けたものです。2人が3時間働けば6人時です
- 人時売上高は、売上を人時で割った、1人時あたりの売上です
人件費率は「人件費 ÷ 売上」です。人件費と売上を、それぞれ人時を使って書き直します。
- 人件費 = 人時 × 平均時給
- 売上 = 人時 × 人時売上高
この2つを割ると、どちらにも入っている人時が消えて、次の形になります。
人件費率 = 平均時給 ÷ 人時売上高
つまり人件費率は、その店の平均時給と人時売上高の2つだけで決まります。
モデル店で確かめます。実在の店ではなく、説明のために置いた数字です。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 日商 | 300,000円 |
| 1日の人時 | 75人時(準備7・営業時間帯60・締め8) |
| 人時売上高(300,000 ÷ 75) | 4,000円 |
| 平均時給 | 1,200円 |
| 人件費(75 × 1,200) | 90,000円 |
| 人件費率(90,000 ÷ 300,000) | 30.0% |
1,200円 ÷ 4,000円 = 30.0%
人件費と売上から出しても、平均時給と人時売上高から出しても、同じ30.0%になります。
ここでの平均時給は、その日に働いた全員の給与を、全員の人時で割った額です。社員がいる店では、社員の月給を働いた時間で割った額も、この平均に混ざります。
業態別の目安が合わないのは、率を動かす5つの条件が店ごとに違うから
上の式に、業態という項目はありません。入っているのは、平均時給と人時売上高の2つだけです。
業態が違うと率が違って見えるのは、この2つを動かす条件が、業態ごとにまとめて違うからです。条件は次の5つです。
| 条件 | 式のどちらに効くか | 効き方 |
|---|---|---|
| 地域の時給の水準 | 平均時給 | 時給の高い地域ほど、率は上がる |
| 社員の割合 | 平均時給 | 社員の月給を時間で割った額が混ざる。社員が多いほど、平均時給は上がりやすい |
| 客単価 | 人時売上高 | 高いほど1人時あたりの売上が増え、率は下がる |
| 回転の速さ | 人時売上高 | 同じ人時でさばける客数が増えるほど、率は下がる |
| 準備と締めの人時 | 人時売上高 | 売上が立たない時間が長いほど、率は上がる |
同じ業態の店どうしでも、この5つは店ごとに違います。駅前と郊外では時給の水準が違い、同じ居酒屋でも客単価や回転の速さが違います。だから、業態でくくった平均の率は、自店の5つの組み合わせとは一致しません。
人時売上高の出し方そのものは、人時の計算のやり方に書きました。
同じ日商30万円でも、人件費率は25.0%から34.3%まで動く
5つの条件を動かすと、率がどこまで変わるかを並べます。どの店も日商は30万円です。
| 店 | 平均時給 | 人時売上高 | 人件費率 |
|---|---|---|---|
| モデル店 | 1,200円 | 4,000円 | 30.0% |
| 平均時給が1,300円の地域にある、同じつくりの店 | 1,300円 | 4,000円 | 32.5% |
| 客単価が高く、回転がゆっくりの店 | 1,200円 | 3,500円 | 34.3% |
| 回転が速く、1人時で4,800円売る店 | 1,200円 | 4,800円 | 25.0% |
いちばん低い25.0%から、いちばん高い34.3%まで、9.3ポイントの幅があります。日商も業態も変えていません。
時給が上がると率が上がることは、最低賃金が上がると、利益はいくら減るのかで、額のほうから見ました。式の分子が動いた形です。
準備と締めの人時も効きます。モデル店の75人時のうち、準備の7人時と締めの8人時、合わせて15人時の間は、売上が立ちません。この15人時が1人時短い店なら、1日の人時は74人時、人時売上高は4,054円、率は29.6%です。
率では0.4ポイントですが、額にすると1日1,200円、月25日営業で30,000円です。
ただし、実際に仕込みの時間を測ってみると、減らせる時間ではなく、置く時間帯を変えられる時間として出てくることがあります(飲食店の仕込みは何時間かかっていますか)。置く時間帯を変えただけなら、1日の人時は75人時のままで、率は動きません。
比べる前に、人件費に何が入っているかをそろえる
目安と比べる前に、もう1つ確かめることがあります。その率の人件費に、何を入れているのかです。
モデル店の1日を、月25日営業ぶん伸ばして並べます。月商7,500,000円(300,000円 × 25日)、月の人時1,875人時(75人時 × 25日)です。
| 人件費に入れるもの | 月の人件費 | 人件費率 |
|---|---|---|
| 給与だけ | 2,250,000円 | 30.0% |
| +交通費(月25,000円と置いたモデル) | 2,275,000円 | 30.3% |
| +会社が負担する社会保険料(全員が加入し、給与と交通費の合計の15%と置いたモデル) | 2,616,250円 | 34.9% |
同じ店の同じ月なのに、30.0%と34.9%が並びます。差は4.9ポイント、額にすると月366,250円です。
3行目は、全員が加入していると置いた計算です。実際の社会保険料は、加入している人の給与にだけかかります。加入するかどうかは、週に働く時間などで決まるので(社会保険の週20時間の壁)、短い時間で働く人が多い店では、負担はこの行より軽くなります。
この表で言いたいのは、人件費に何を入れるかだけで、率が5ポイント近く動くということです。業態の違いだと思って見ていた差が、実は人件費に入れたものの違いだった、ということが起こります。よその数字と比べるなら、先に中身をそろえます。
借りてきた目安は、置ける人時に直してから使う
開店したばかりで自店の実績が無いときは、よその目安を出発点にするしかありません。そのときも、率のまま持たずに置ける人時(その日の売上に対して、シフトに置いてよい人時の上限)に直します。
- 必要な人時売上高 = 平均時給 ÷ 目安の率
- 置ける人時 = 日商 ÷ 必要な人時売上高
モデル店(平均時給1,200円・日商300,000円)で25%を借りると、1,200 ÷ 0.25 = 4,800円、300,000 ÷ 4,800 = 62.5人時です。自店の実績の30%なら75人時なので、5ポイントの差は1日12.5人時、15,000円ぶんの枠の差になります。
自店が75人時で回している日に62.5人時で組めば、足りない時間帯に売上を落とします(人件費を削ったら売上も落ちた)。月の上限を先に出す手順は人件費率がオーバーする原因に、日ごとに人時へ直して置き直す計算はFL比率が下がらない原因に書きました。
借りた目安は、自店の実績が貯まるまでのつなぎです。3か月ぶん貯まったら、次の手順で自店の目安に置き換えます。
自店の目安は、利益が残った日の実績から作る
実績が3か月ぶんあれば、目安はよそから借りずに作れます。手順は3つです。
- 直近3か月から、利益が残った日を選ぶ(率が良かった日ではなく、利益が残った日)
- その日の売上を、その日の1日の人時で割る(人時売上高が出る)
- 平均時給を、その人時売上高で割る(これが自店の率)
率が良かった日を選ばないのは、率が良い日には、人を減らしすぎて売上を逃した日が混ざるからです。その日を基準にすると、次の月も同じように売上を逃す組み方になります。
モデル店の、同じ曜日の3日で比べます。原価率は30%と置き、売上から原価と人件費を引いた額を「残った額」とします。
| 日 | 売上 | 1日の人時 | 人件費 | 人件費率 | 残った額(売上 − 原価 − 人件費) |
|---|---|---|---|---|---|
| A(人を減らした日) | 260,000円 | 60人時 | 72,000円 | 27.7% | 110,000円 |
| B | 300,000円 | 75人時 | 90,000円 | 30.0% | 120,000円 |
| C(人を余らせた日) | 290,000円 | 82人時 | 98,400円 | 33.9% | 104,600円 |
率でいちばん良く見えるのはAです。でもAの日は、ピークの人が足りず料理を出すのが遅れて、追加の注文が伸びなかった日です。人件費は18,000円浮きましたが、売上を40,000円落としていて、残った額はBより10,000円少なくなりました。
基準にするのは、残った額がいちばん多いBです。
300,000円 ÷ 75人時 = 4,000円、1,200円 ÷ 4,000円 = 30.0%
ここでは原価率を30%で固定しましたが、自店の数字があればそれを使います。日ごとの原価が分からなければ、月の原価率を同じ月の日すべてに当てて構いません。比べたいのは日どうしの差なので、同じ率を当てれば順番は変わりません。
手順2で割るのは、準備と締めも含めた1日のすべての人時です(モデル店なら75人時)。人件費のほうに準備と締めの分も入っているので、割る人時も同じ範囲にそろえます。
時間帯ごとに何人置くかを決めるときの目標の人時売上高は、これとは別です。営業時間帯の60人時だけで割った5,000円を使います。割る人時を営業時間帯だけにする理由は、適正人員の出し方に書きました。
選ぶ日は、曜日と季節をそろえます。土曜の数字を火曜の基準にすると、火曜は毎週のように届かなくなります。
そして、出た率は1つではなく、日商ごとの幅で持ちます。同じ店で同じ組み方をしても、日商が変わると率が変わるからです。
モデル店で、営業時間帯は1人時5,000円の目標で人を置き、準備と締めの15人時はどの日も同じとすると、次のようになります。
| 日商 | 営業時間帯の人時 | 1日の人時 | 人件費 | 人件費率 |
|---|---|---|---|---|
| 200,000円 | 40人時 | 55人時 | 66,000円 | 33.0% |
| 300,000円 | 60人時 | 75人時 | 90,000円 | 30.0% |
| 400,000円 | 80人時 | 95人時 | 114,000円 | 28.5% |
暇な日ほど率が上がるのは、準備と締めの15人時が、売上に関係なく毎日必要だからです。店のつくりから来る差で、その日の組み方が悪かったわけではありません。
1つの率で毎日を見ると、日商20万円の日のシフトは、いつも「悪い日」に見えてしまいます。日商ごとの幅で持てば、その日の売上に対して、ちょうどよく組めたかどうかで見られます。
手作業で続けるときの限界
ここまでの計算は、電卓でできます。ただ、毎月続けようとすると、次のところで止まります。
- 平均時給は、人が入れ替わるたび、社員の働く時間が変わるたびに動く
- 利益が残った日を選ぶには、日ごとの売上と、全員の打刻を集計した1日の人時を並べる必要がある
- 日商ごとの幅は、曜日と季節ごとに作り直すことになる
- 店舗が増えると、時給の水準も客単価も違うので、1つの率では並べられない(店舗ごとに利益率がばらつく原因)
とくに2つ目が効きます。日ごとの売上と人時が並んでいないと、どの日が基準になるかを選べません。
Profit Shiftなら、日商ごとに置く人時を決めて、日ごとの実績と見比べられる
Profit Shiftは、売上目標から必要な人時を出し、その人時でシフトを組み、出退勤の打刻までつなげて見る道具です。この記事でやったことは、画面ではこう対応します。
| この記事でやること | Profit Shiftの画面 |
|---|---|
| 借りてきた目安の率を、使える人時に直す | 「人時シミュレーター」(登録不要)。目標の売上と人件費率、平均時給と営業日数を入れると、1か月で使える人時と1日あたりの人時が出る |
| 日商ごとに、置く人時と人件費率を決めておく | 「理想人時設定」の表②(日商 → 必要人時 → 人件費率)。日商ごとに人時を入れると、人件費と人件費率が自動で出る |
| 平均時給が実態とずれていないかを確かめる | 同じ画面の「実績平均時給 (過去30日)」。時給で働くスタッフの打刻から出し、設定した平均時給と並べて見せる |
| 日ごとの実績から、自店の率を拾う | 「ダッシュボード」の日ごとの表。「売上実績」「確定h/実績h」「実質人件費」「実人件費率」が並ぶ |
表②に入れた人時は、ダッシュボードの「必要h」と、シフトを組む画面の「必要人時」に、その日の売上目標に合わせた値として出ます。目安を1つの率で持つのではなく、日商ごとの人時として持つ形です。
実績平均時給が、設定した平均時給と5%以上ずれていると、見直しを促す文が出ます(勤務の記録が10件以上あるとき)。
ダッシュボードの「実人件費率」は、「実質人件費」を税抜の「売上実績」で割った率です。実質人件費に入っているのは、社員の月給を日割りした額と、時給で働くスタッフの打刻の実績(深夜の割増を含む)です。交通費と、会社が負担する社会保険料は入っていません。よその率と比べるときは、この中身をそろえてから比べます。
人時売上高の列はありません。自店の率を拾うときは、選んだ日の「売上実績」を「実績h」で割って、人時売上高を出します。「実績h」は、出退勤の打刻から出した実際の人時です。
どの日を自店の基準にするかを選ぶのは、店長です。Profit Shiftが引き受けるのは、日商ごとの人時と人件費率を表にしておくことと、日ごとの実績を並べるところまでです。
理想人時設定とダッシュボード、シフトの作成と出退勤の打刻は、無料プラン(1店舗・スタッフ10名まで)から使えます。
まとめ
- 人件費率は「平均時給 ÷ 人時売上高」の答え。式に業態という項目は入っていない
- 率を動かすのは時給・社員の割合・客単価・回転・準備と締め。日商30万円でも25.0%〜34.3%
- 人件費に何を入れるかでも、率は4.9ポイント動く。比べる前に中身をそろえる
- 借りてきた目安は、実績が貯まるまでのつなぎ。使うなら人時に直す(25%と30%で1日12.5人時の差)
- 自店の目安は、率ではなく残った額がいちばん多い日の実績から作る
- 出た率は1つではなく、日商ごとの幅で持つ(モデル店で33.0%〜28.5%)
- Profit Shiftなら、日商ごとの人時と人件費率を表にして、日ごとの実人件費率と見比べられる
借りてきた目安を自店の人時に直すところは、人時シミュレーターで試せます。目標の売上と人件費率、平均時給と営業日数を入れると、1か月に使える人時と1日あたりの人時が出ます。25%と30%を入れ替えて、使える人時がどれだけ変わるかを見比べることもできます。登録もログインも要らず、入力した数字はお使いの端末の中だけに残ります。
