飲食店の適正人員は、時間帯ごとの売上と、その時間帯に使った人時を突き合わせて出します。1日の売上を1日の人時で割った数字を基準にすると、どの時間帯も人が多くなります。
理由は1つです。1日の人時には、売上が1円も立たない時間——オープン準備とクローズ——が入っているからです。
「適正人員は何人ですか」に答えがない理由
何人置けばいいかを調べると、席数あたりの人数や、業態ごとの目安が出てきます。ただ、それで自店の土曜の18時に何人置くかは決まりません。
理由は、必要な人数が「店」ではなく「時間帯」で変わるからです。同じ店でも、15時と19時では売上が10倍違います。店に1つの適正人員があるという前提が、そもそも合っていません。
もう1つ。同じ席数でも、客単価と回転が違えば1時間の売上が違います。売上が違えば、こなす仕事の量が違い、人数も違います。人数は売上の結果として決まるものなので、売上を見ずに人数だけ決めることはできません。
だから、見る単位は1日ではなく時間帯になります。そしてここに、最初の落とし穴があります。
1日の合計で割ると、なぜ人が多くなるのか
実在の店舗ではなく、説明のためのモデルです。日商30万円の日に、1日の人時が62時間だった店を考えます。営業は11時から21時までです。
この62人時は、全部が売上を作っているわけではありません。
| 内訳 | 人時 | その時間の売上 |
|---|---|---|
| オープン準備(9〜11時) | 6人時 | 0円 |
| 営業時間帯(11〜21時) | 48人時 | 300,000円 |
| クローズ(21〜23時) | 8人時 | 0円 |
| 合計 | 62人時 | 300,000円 |
売上30万円は、48人時のほうだけが作っています。それなのに62で割ると、こうなります。
| 割り方 | 計算 | 出てくる基準 |
|---|---|---|
| 1日の合計で割る | 300,000 ÷ 62人時 | 4,839円 |
| 営業時間帯だけで割る | 300,000 ÷ 48人時 | 6,250円 |
同じ日の、同じ売上です。割る相手を変えただけで1,400円以上ずれます。この基準で1日ぶんの人時を出すと、差はこうなります。
| 使う基準 | 営業時間帯に要る人時 | + 準備・クローズ | 1日の合計 | 人件費率 |
|---|---|---|---|---|
| 4,800円(1日で割った値) | 300,000 ÷ 4,800 = 62.5人時 | +14人時 | 76.5人時 | 28.1% |
| 6,250円(営業時間帯で割った値) | 300,000 ÷ 6,250 = 48.0人時 | +14人時 | 62.0人時 | 22.7% |
※ 平均時給1,100円で計算
実際にうまく回った日は62人時でした。営業時間帯だけで割ったほうは、そこにぴったり戻ります。1日の合計で割ったほうは、14.5人時多い。時給1,100円なら1日およそ16,000円、30日で約48万円です。人件費率でいえば22.7%が28.1%になります。
売上を作っていない時間を分母に入れると、基準が薄まります。そして薄い基準を使うと、全部の時間帯で少しずつ人が増えます。1か所で大きく間違えるのではなく、全時間帯で少しずつ間違えるので、見ていて気づきません。
突き合わせるのは、時間帯の売上と時間帯の人時
基準を出す作業は、うまく回った日を1日選んで、時間帯ごとに売上と人時を並べるところから始めます。1日の合計だけを見ていると、この作業ができません。
| 時間帯 | 売上 | 人時 | 人時売上高 |
|---|---|---|---|
| 9〜11時(オープン準備) | 0円 | 6人時 | — |
| 11時台 | 18,000円 | 5人時 | 3,600円 |
| 12時台 | 42,000円 | 5人時 | 8,400円 |
| 13時台 | 30,000円 | 5人時 | 6,000円 |
| 14時台 | 15,000円 | 3人時 | 5,000円 |
| 15時台 | 6,000円 | 3人時 | 2,000円 |
| 16時台 | 12,000円 | 3人時 | 4,000円 |
| 17時台 | 24,000円 | 6人時 | 4,000円 |
| 18時台 | 45,000円 | 6人時 | 7,500円 |
| 19時台 | 60,000円 | 6人時 | 10,000円 |
| 20時台 | 48,000円 | 6人時 | 8,000円 |
| 21〜23時(クローズ) | 0円 | 8人時 | — |
| 合計 | 300,000円 | 62人時 |
並べて終わりではありません。売上を作った時間と、作っていない時間を分けて合計するところまでが1組です。
- 営業時間帯(11〜21時): 売上 300,000円 ÷ 48人時 = 6,250円
- 準備・クローズ: 売上 0円 / 14人時
営業時間帯の6,250円が、自店の目標人時売上高になります。
並べると、平均では見えないことも一緒に出てきます。19時台は1人時あたり10,000円、15時台は2,000円。5倍の開きがあります。同じ店の同じ日でも、時間帯によってこれだけ違うのに、1日の平均1つで全時間帯の人数を決めていたわけです。
人数は、時間帯の売上見込み ÷ 6,250円
基準が決まれば、あとは割り算です。
人数 = その時間帯の売上見込み ÷ 目標人時売上高
| 時間帯 | 売上見込み(1時間) | 計算 | 置く人数 |
|---|---|---|---|
| 11時台 | 18,000円 | 18,000 ÷ 6,250 = 2.9人 | 3人 |
| 15時台 | 6,000円 | 6,000 ÷ 6,250 = 1.0人 | 2人(下限) |
| 18時台 | 45,000円 | 45,000 ÷ 6,250 = 7.2人 | 8人 |
| 19時台 | 60,000円 | 60,000 ÷ 6,250 = 9.6人 | 10人 |
端数は切り上げます。10時間ぶんを同じやり方で出して足すと52人時になり、実際にうまく回った日の48人時より4人時多く出ます。この4人時は、切り上げが10回積み上がったぶんです。
実際に組むとここは吸収されます。1人が複数の時間帯にまたがって働くからです。17時から22時まで入る人は、17時台から21時台までを同時に埋めます。時間帯ごとの人数は「その時間に何人立っているか」であって、時間帯の数だけ人を採るという意味ではありません。
下限は計算ではなく、店の決まりで持つ
割り算の結果が1人を切る時間帯は必ず出ます。モデルの15時台がそれです。そこで1人にすると、レジと調理を同時に回せない、急な体調不良に対応できない、といった問題が起きます。
だから下限は計算の外で決めます。多くの店は2人です。厨房とホールが分かれている店なら、それぞれに1人ずつで2人が下限、という決め方もあります。
下限を決めておくと、計算結果を見て「1.0人だから1人」と迷わずに済みます。迷いが無くなる分、ほかの時間帯に頭を使えます。
オープンとクローズは、売上で割らない
ここが抜けたままになりがちです。オープン準備とクローズは売上がゼロなので、割り算では人数が出ません。作業量で決めます。
やることは、作業を書き出して時間を測るだけです。
- レジ締めと現金の確認: 1人で15分
- 厨房の清掃: 2人で40分
- ホールの片付けとセット: 2人で30分
- 翌日の仕込みと発注: 1人で30分
足すと約2時間20分、人に直して約2.4人時。ここに引き継ぎと余裕を見て枠を置きます。モデルの日はクローズに8人時を使っていました。測ったうえで6人時で足りるなら、1日2人時、1か月で60人時。時給1,100円なら月に66,000円です。
「上がっていいよ」が言えるようになる
ある店舗から聞いた話です。この考え方を入れてから、オープンとクローズが本当にいまの人時で最適なのかを見た。実際に、クローズの人時は多かった。
ただ、その方が変わったと言うのは、減った金額のほうではありませんでした。
今までは人数だけだったので、「なんとなく帰れない」とか、「帰っていいよ」と言いにくかった。クローズに何人時要るかがはっきりしたので、最初からその人数で組めるし、言えるようになった。
人数だけで見ていると、何人残ればいいのかの根拠がありません。根拠がないから、店長は「上がっていいよ」と言い出しにくく、スタッフのほうも「なんとなく帰れない」。どちらも気を遣っているだけで、店にも本人にも良いことは起きていません。
クローズが6人時と決まっていれば、「今日はここまでで足ります。ありがとうございました」と言えます。言われた側も、追い返されたのではなく、はじめからそういう計画だったと分かります。
人時は、人を減らすための数字ではありません。こういうときに使う言葉です。
1日の合計は、足して出す
時間帯ごとに出したら、最後は足すだけです。
1日の人時 = 営業時間帯の合計 + オープン準備の枠 + クローズの枠
モデルの日なら 48 + 6 + 8 で62人時。この合計が、日商30万円に対して妥当かどうかを見ます。大きくずれていれば、どこかの時間帯の売上見込みか人数が実態と合っていません。
合計が合っていて、置き場所も売上の山に沿っている。 この2つが揃った状態が、その店の適正人員です。人数は固定ではなく、売上の形に沿った配置として決まります。
人件費は削るものではなく、配るものです。適正人員を出す作業は、人を減らすためではなく、売上の山に迷わず厚く置くためにあります。
出した人数と、置ける人数は違う
適正人員は「置きたい人数」です。希望を集めたら、その人数に届かない時間帯が必ず出ます。
そのときは差を時間で数えて埋めます。手順は人手が足りなくて組めないときにまとめました。大事なのは、置けなかった時間帯を記録しておくことです。毎週同じ時間帯が足りないなら、それは採用か募集の問題で、シフトの組み方では解決しません。
手作業の限界
時間帯ごとの割り算は電卓でできます。続けると次で止まります。
- 時間帯ごとの売上と人時を、毎日そろえて並べ続ける必要がある
- 営業時間帯と、準備・クローズを毎回分けて集計しないと、基準が静かに薄まる
- 目標人時売上高を変えたら、全時間帯を計算し直し
- 出した人数と実際の配置の差が、週をまたぐと残らない
とくに2つ目と4つ目が効きます。分けるのを一度やめると基準がずれますし、差が残らないと、毎週同じ時間帯で同じ苦労をします。
まとめ
- 適正人員は店に1つの固定値ではなく、時間帯ごとに売上見込みから出す
- 基準になる目標人時売上高は、営業時間帯の売上 ÷ 営業時間帯の人時。1日の合計で割ると、売上の立たない時間で薄まる
- モデルの日では 62で割ると4,839円、48で割ると6,250円。この差が1日14.5人時、人件費率にして5.4ポイントになる
- 人数 = 時間帯の売上見込み ÷ 目標人時売上高。1人を切る時間帯は、店の決まりで持つ下限(多くは2人)に置く
- オープン準備とクローズは売上で割らず、作業を測って別枠で持つ。決まっていれば「上がっていいよ」と言える
- 1日の人時は、営業時間帯の合計に準備とクローズの枠を足して出す
目標人時売上高の元になる月の人時は、人時シミュレーターで出せます。目標の売上と人件費率を入れると、1か月に使える人時と1日あたりの人時が出ます。登録もログインも要らず、入力した数字はお使いの端末の中だけに残ります。
