「17時オープンなのに、朝8時前から人が入っています。どう設定すればいいですか」
実際に受けた相談です。開店の10時間前から準備が動いていることになります。
シフトの設定を考える前に、聞くことがあります。なぜ10時間前に入る必要があるのか。
答えは「昔の流れが残っている」だった
返ってきた答えは、こうでした。
以前、両親と自分だけで仕込んでいた頃の流れがそのまま残っています。いまは午前中だけ働ける方が入ってくれています。
当時は、自分たちが朝から店にいました。店にいたからやっていた作業も多かったはずです。人が変わっても、時間割だけが残る。これはよくあります。
相談された方も、話しながらこう言われました。
確かに改めて考えてみると、そのせいで間延びした働き方になってるように感じますね。
この感覚は正しいと思います。ただ、感覚のままだと動かせません。数字にします。
「清掃」「仕込み」とひとくくりにしない
やることは2つだけです。
- 朝にやっている作業を、すべて書き出す 「清掃」「仕込み」でまとめない。どこを掃除しているか、何を何人前つくっているか、まで分解する
- 作業ごとに「何人で何分か」を出す 「1人で30分」のように、人時にする
ひとくくりのままだと動かせません。「仕込み」という塊は動かせませんが、「野菜のカット60分」なら動かせます。
実際の棚卸
出てきた表です(実例をもとに、作業名は一般的な言い方に直しています)。
仕込みの担当(毎日・1人)
| 作業 | 分 |
|---|---|
| 確認ごと(予約・在庫・発注の確認) | 14 |
| 米の仕込み | 30 |
| 野菜のカット | 60 |
| 漬物・オイル・だしなどの仕込み | 53 |
| 野菜の注文 | 10 |
| 下処理(皮むき・スライス) | 21 |
| 合計 | 188分(約3時間10分) |
掃除の担当(週3回・1人)
| 作業 | 分 |
|---|---|
| モップ・ホール・玄関 | 120 |
| テーブル拭き | 40 |
| トイレ | 15 |
| 備品の補充 | 10 |
| 餃子包み | 30 |
| 合計 | 215分(約3時間35分) |
仕込みの合計は3時間あまり。ところが、実際には5時間が経過していました。
差は1日およそ1時間50分。月26日なら、約49人時です。
表にして初めて見えたこと
もう1つあります。掃除の担当の方のリストに、「餃子包み」が入っています。 これは掃除ではなく仕込みです。
悪いことではありません。手が空けば手伝う、というのは自然なことです。ただ、誰が何をしているかが表になって初めて、動かせる作業と動かせない作業が分かれます。 頭の中にあるうちは、混ざったままです。
出てきた答えは「削減」ではなかった
ここがいちばん大事なところです。棚卸のあと、実際に決まったのはこの3つでした。
- 仕込みの方の出社時間を、朝から14時に変えて試す
- 掃除の方は「朝が良い」とのことだったので、時間ではなく曜日を動かす(月・水・土 → 水・土・日)
- 仕込みの方はホールもできるので、14時から18時に入る
削った人時は、1つもありません。置き場所を変えただけです。
それなのに、夕方のピークの入り口に1人増えました。 朝に固まっていた時間が、売上を作る時間に移ったことになります。
曜日にも理由がある
掃除の方は、朝という希望をそのままにして、動かしたのは曜日だけです。ただ、その曜日にも理由があります。
この店は、土日だけランチ営業をやっています。
つまり土日は、朝から店が動く日です。この日の朝の掃除は「開けるための作業」になります。一方、夜だけの平日は17時まで誰も来ません。朝に掃除の方が1人でいることになります。
月曜を外して日曜を入れたのは、店が朝から動く日に、朝の人を置いたということです。
希望は動かさない。動かすのは曜日。そして曜日の決め方にも、その日に店が何時から動くかという根拠を置く。ここまでやると、次に希望を聞くときの通りが違います。
なぜ朝に固まるのか
3つあります。
- 昔の流れ。人が変わっても時間割だけが残る
- 出られる人に合わせた。「午前中だけ出られる方」がいたので、作業のほうを午前に寄せた。人起点のシフトが準備の時間帯にも起きている
- 誰も測っていない。5時間かかっていることも、3時間で終わることも、測るまで誰も知らなかった
3つ目が根です。測っていないので、1つ目も2つ目も直しようがありません。
測ると、たいていもっと短くなる
しかも、3時間という数字もまだ縮みます。
測って基準ができると、やっている本人の意識が変わります。「この作業は30分」と決まっていれば、30分で終える段取りを自分で考えます。道具の置き場所が変わり、やる順番が変わる。急かされたからではなく、自分で基準を持ったからです。
ここで心配されるのが「速くしたら雑になるのでは」ですが、逆です。
- 基準がないと、時間はいくらでも伸びる。伸びたぶんは丁寧さではなく、迷いに使われている
- 基準があると、迷いが消えて手順が固まる
- 手順が固まると、誰がやっても同じものができる。それが質です
基準を設けることで、質を上げながら速くできます。 これは経験から確実に言えることです。「時間をかけているから丁寧」は、たいてい思い込みです。
だから、測るのは終わりではなく始まりです。そして縮んだぶんは、また置き場所を選べる時間になります。
動かす前に、3つ聞く
棚卸した作業を、1つずつこの3つに当てます。
- これは朝でなければできないか 夜のうちにできないか。オープン後で間に合わないか。前日でいいものはないか
- 誰がやるのが自然か その人にしかできない作業か。手が空いた人ができる作業か
- その人にとってどうか 朝がいい方もいます。時間が動かせないなら、曜日は動かせないか
3つ目を飛ばすと、うまくいきません。時間は本人の生活です。 店の都合だけで動かすと、次の希望が出てこなくなります。
営業中とクローズにも、同じ問いを
朝だけの話ではありません。営業時間のスタッフにも聞いてみてください。
営業時間中や、閉店作業のなかで、できることはありませんか
朝にしかできないと思われていた作業が、実は夜のうちに終わることがあります。逆に、閉店後にやっている作業が、営業中の空いた時間でできることもあります。
オープン直後の1時間に、作業を当てる
さきほどの「野菜のカット60分」で考えてみます。
まず、朝の作業を2つに分けます。
| いつまでに必要か | |
|---|---|
| 開けるための作業 | オープン前に終わっていないといけない |
| ピークのための仕込み | ピークに間に合えばいい |
野菜のカット60分は、全部が「開けるための作業」でしょうか。開店と同時に使うぶんと、20時ごろに使うぶんが混ざっていませんか。
そのうえで、17時オープン・ピークが18時からの店を考えます。オープンから最初の1時間は、そんなに人が要りません。 それでも下限の人数は置いていますし、ピークに向けて人を入れておきたいので、結局その手前から人が入ることになります。
だったら、順番を変えられます。オープン前ではなく、オープン後に入ってもらう。 そして空いている最初の1時間に、「ピークのための仕込み」を当てる。
こうすると、同じ1人時で2つ済みます。
- 仕込みが終わる
- ピークが始まるときには、もう店にいる
朝の60分が、夕方の立ち上がりに変わります。
もちろん全部は移せません。開店と同時に使うぶんは、これまでどおり開ける前に用意します。移せるのは後半で使うぶんです。ここも、ひとくくりにせず分けて考えます。
🔴 これは、朝の人の仕事を減らす話でも、奪う話でもありません。
チーム全体で見て、より顧客価値を作れる時間や動きに変えていくという話です。同じ人時が、誰も来ていない朝に置かれているのと、お客様がいる時間に置かれているのとでは、生む価値がまるで違います。
そう伝わっていれば、現場から作業が出てきます。「減らされる」と伝わっていれば、出てきません。
手作業の限界
棚卸は紙とペンでできます。続けると次で止まります。
- 作業が増えたり減ったりするたびに、表を作り直すことになる
- 動かした結果、朝と夕方の人時がどう変わったかを毎回数え直す
- オープンとクローズの枠を決めても、実際にその枠で回っているかが残らない
とくに3つ目です。決めた枠と実際のズレが残らなければ、半年で元の時間割に戻ります。
まとめ
- 「開店の何時間前から」に目安はない。作業を書き出して測ると、時間のほうが決まる
- 「清掃」「仕込み」とひとくくりにしない。塊は動かせないが、「野菜のカット60分」なら動かせる
- 実例では、10時間前から動いていた準備の中身は3時間あまり。実際は5時間かかっていた(1日約1時間50分、月約49人時の差)
- 表にすると、役割の混ざりも見える(掃除の担当のリストに仕込みが入っていた)
- 🔴 出てきた答えは削減ではなく、置き場所の変更だった。削った人時はゼロで、夕方のピークに人が増えた
- 移し先は朝・夜・前日だけではない。「開けるための作業」と「ピークのための仕込み」を分ければ、オープン直後の空いた1時間にも置ける
- 時間が動かせないなら曜日を動かす。その曜日も「その日に店が何時から動くか」で決める(例: ランチ営業のある土日に朝の人を置く)
- 測るのは終わりではなく始まり。 基準ができると意識が変わり、質を上げながらさらに短くなる
- 動かす前に3つ聞く。①朝でなければできないか ②誰がやるのが自然か ③その人にとってどうか
- 営業中とクローズにも同じ問いを。減らす話ではなく、価値を作れる時間に変える話として伝える
準備とクローズの枠を決めたあと、1日ぜんぶの人時を組み直すには人時シミュレーターが使えます。目標の売上と人件費率を入れると、1か月に使える人時と1日あたりの人時が出ます。登録もログインも要らず、入力した数字はお使いの端末の中だけに残ります。
