値上げは、粗利を増やす正しい打ち手です。悪手になるのは、店の都合だけで値段を決めて、お客様から見て払う理由があるかを確かめなかったときです。

確かめなかったことは、あとから数字に出ます。お客様1人あたりの支払額である客単価が、値上げをしたのに上がらない、という形です。

値上げは、粗利を増やす正しい打ち手

値上げをためらう理由でいちばん多いのは、お客様が減るのではないか、という心配です。たしかに、値上げをすると来店する人数(客数)が減ることはあります。

それでも、お店に残るお金で考えると、値上げのほうが得になることが多いのです。値上げで増えるのは売値だけで、料理1人前をつくる材料費(原価)は変わらないからです。値上げした分は、そのまま粗利(売上から原価を引いた、お店に残るお金)の増加になります。

説明のために、モデル例の店で計算します。客単価が1,500円、1日のお客様が200人、1人あたりの原価が450円(原価率30%)の店です。お客様1人あたりの粗利は1,050円、1日の粗利は210,000円になります。

この店が、メニューを平均3.0%値上げしたとします。客単価は1,545円になり、原価は450円のままなので、1人あたりの粗利は次のとおりです。

1,545円 − 450円 = 1,095円

値上げ前より、お客様1人につき45円多く残ります。値上げでお客様が3.0%減って194人になっても、1日の粗利は212,430円で、値上げ前より2,430円多くなります。この店なら、お客様が4.0%減るところまでは、値上げ前より粗利は減りません。

客数がどこまで減ったら損になるかの計算のしかたは、姉妹サイトの値上げで利益はどれくらい変わるかに手順ごとまとめてあります。この記事では、その先を扱います。計算どおりにいくかどうかは、お店ではなくお客様が決める、という話です。

値上げがうまくいくかは、お客様が決める

ただし、ここまでの計算には前提があります。値上げのあとも、お客様がこれまでと同じものを注文してくれる、という前提です。そうなるかどうかは、お店ではなくお客様が決めます。

値段を決めるのはお店です。けれども、その値段を払ってもいいと思うかどうかを決めるのは、お客様です。当たり前のことですが、値上げを決める場面では、これがよく抜け落ちます。

よくある値上げの決め方は、材料費が何%上がったから、メニューも何%上げよう、というものです。お店の計算としては正しいのですが、お客様から見ると、これはお店の事情です。お客様が気にしているのは、その値段を払って自分が満足できるかどうかです。

ここで立ち返りたいのが、お店の理念やミッションです。大げさに聞こえるかもしれませんが、要するに、うちはお客様にどんな満足を約束している店なのか、ということです。値上げをしても、その約束を守れているなら、お客様は値上げを受け入れてくれます。約束が守れていなければ、お客様にとって値上げは、同じ満足に前より多く払わされることになります。値上げが悪手になるのは、このときです。

値上げを決める前に、次の3つを確かめておきます。

  1. 値上げする品が、お客様がうちを選ぶ理由になっている品かどうか。そうであれば、値上げで満足が下がらないかを特に慎重に見る
  2. 値上げしたあとの値段にふさわしい良さを、お客様に一言で説明できるかどうか。材料費が上がったから、はお客様にとっての良さにならない
  3. その値段にふさわしい状態で、料理と接客を届けられるかどうか。料理が出てくるまでの早さ、声のかけ方、テーブルを片づける早さまで含む

3つめは、人の配置の話です。値上げをした月に、人件費を抑えようとしてスタッフを減らしていないかを確かめます。値段にふさわしい状態を実際につくっているのは、その日にお店に立っているスタッフだからです。

この記事で「お客様を見ていない」と言うのは、こうした確認をせずに、お店の都合だけで値段を決めることを指しています。

お客様を見ていないと、客単価が下がる

お客様を見ないまま値上げをすると、どうなるのでしょうか。

お客様は、値上げに不満があっても、たいていは口に出しません。その代わりに、注文を少しずつ減らします。ラーメンにトッピングを付けない。大盛りを並盛りにする。いつもなら頼んでいた餃子を、もう一皿は頼まない。1人ひとりが減らすのは一品でも、それが何人も重なると、客単価の平均が下がります。

たとえば、値上げ後に300円の一品を、お客様の4人に1人が頼まなくなったとします。お客様全体で平均すると、1人あたり75円(300円の4分の1)ずつ減った計算です。

1,545円 −(300円 × 25%)= 1,470円

3.0%値上げしたのに、客単価は値上げ前の1,500円より2.0%低い、1,470円になります。

同じ3.0%の値上げでも客単価は変わる。値上げ前は1,500円で1人あたりの粗利は1,050円。お客様がこれまでどおり注文すれば1,545円で粗利は1,095円。4人に1人が300円の一品を頼まなくなると1人あたり75円減って1,470円、粗利は1,042.5円で値上げ前を下回る

頼まれなかった一品の材料費はかからないので、1人あたりの原価は450円から427.5円に下がります。それでも1人あたりの粗利は1,042.5円で、値上げ前の1,050円を下回ります。つまり、値上げをしたのに、お客様1人から得られる粗利はかえって減っているのです。

原因は、値上げの幅ではありません。値上げのあとにお客様が何を減らすかを、お客様の側に立って考えていなかったことにあります。

餃子の王将に、同じ動きが出た

同じ動きが、大手チェーンの決算にも数字で出ています。「餃子の王将」を展開する王将フードサービスです。

同社は2025年2月14日に、全国の店で一部商品の値段を上げました。たとえば餃子は、税込みで西日本の店が319円から341円に、東日本の店が341円から363円になっています(出典: 同社一部商品の価格改定のお知らせ)。

値上げの直後は、うまくいっていました。値上げ後の2025年4〜6月は、売上高が前年の同じ時期より12.3%増え、営業利益(本業のもうけ)も22.8%増えています。

ところが1年後の2026年4〜6月には、様子が変わりました。次の表は、開店から一定の期間がたった直営店(既存店)の数字を、前年の同じ月と比べたものです。100%を下回っていれば、前年より減っています。

2026年既存店の売上高客数客単価
4月94.4%97.6%96.7%
5月96.9%98.4%98.5%
6月93.7%94.7%98.9%
4〜6月の合計95.1%96.9%98.1%
7月100.3%100.4%99.0%
8月99.7%98.2%101.6%

出典: 王将フードサービス2026年8月 月次売上高(確定版)(2026年9月11日発表)

4〜6月の3か月をまとめると、客数が3.1%、客単価が1.9%、それぞれ前年を下回りました。会社全体では、売上高が282億1,400万円(前年同期比4.9%減)、営業利益が14億1,500万円(同52.8%減)で、本業のもうけはほぼ半分になっています(出典: 同社2027年3月期 第1四半期決算短信・2026年7月31日発表)。

注目したいのは、客単価です。同社の全国的な値上げは2025年2月が直近で、比べている2つの時期は、どちらも値上げ後の値段です。値段が変わっていないのに客単価が下がったということは、お客様1人あたりの注文が減ったか、安い品へ移ったか、割引を使う人が増えたかのいずれかです。値上げで上がった客単価を、1年かけてお客様が少しずつ戻し始めた、と読める動きです。

もっとも、前年の4〜6月はとくに好調だった時期なので、その反動もあります。また、何がお客様の注文を減らしたのかまでは、公表された数字からは分かりません。

8月には客単価が101.6%まで戻り、売上高は8月として過去最高になりました。同社は、季節限定の商品やセットメニューが好調だったと説明しています。ただし、客数は98.2%で前年を下回ったままです。同じ月には、デリバリーで人気5商品を30%引きにする施策を行い、デリバリーの売上高は前年同月比144.8%に伸びました。値引きでお客様を呼び戻せば売上は戻りますが、そのぶん1人あたりの粗利は薄くなります。

726店舗を持つ大手でも、値上げの結果は客単価の小さな変化にはっきり表れます。1店舗のお店なら、同じ変化がもっと早く、もっと大きく利益に響きます。

同じ3%の値上げでも、1日1万円の差がつく

ここからは、自分のお店の規模に置き換えて考えます。モデル例の店では、スタッフが1日に合計75.0時間働き、平均時給は1,200円です。1人が1時間働くことを1人時(にんじ)と数えるので、この店の1日は75.0人時になります。数え方は人時の計算のやり方にまとめました。

値上げがうまくいった場合と、一品を頼まれなくなった場合を並べます。

項目値上げ前うまくいった場合一品減らされた場合
客数200人194人194人
客単価(税抜)1,500円1,545円1,470円
1日の売上(税抜)300,000円299,730円285,180円
原価90,000円87,300円82,935円
粗利210,000円212,430円202,245円
人件費(75.0人時)90,000円90,000円90,000円
1日に残る利益120,000円122,430円112,245円
人件費率30.0%30.0%31.6%

実在の店ではなく、説明のためのモデル例です。客数を3.0%、客単価を2.0%下げたのは、さきほどの王将の数字に近い形にそろえるためです。

1日に残る利益は、粗利から人件費を引いた額です。うまくいった場合と一品減らされた場合の差は、1日10,185円。月25日営業なら254,625円、1年(300日)なら3,055,500円になります。同じ3.0%の値上げでも、お客様の受け止め方しだいで、1年に300万円を超える差がつくのです。

もう一つ注目してほしいのが、人件費です。どの場合も90,000円で、1円も増えていません。それなのに、売上に対する人件費の割合(人件費率)は30.0%から31.6%に上がっています。売上が減ったぶん、割合だけが上がったのです。この数字だけを見ると、スタッフが多すぎると勘違いしやすくなります。人件費率が結果として動く数字である理由は、FL比率が下がらない原因でも説明しました。

人件費を削っても、失った利益は戻らない

人件費率が31.6%に上がると、元の30.0%に戻したくなります。戻すには、人件費を85,554円まで減らす必要があります。平均時給1,200円で割ると71.3人時、つまりスタッフの時間を1日3.7時間分減らすことになります。

やり方人時人件費1日に残る利益人件費率
うまくいった場合75.0人時90,000円122,430円30.0%
一品減らされたまま75.0人時90,000円112,245円31.6%
人件費率を戻すまで減らす71.3人時85,554円116,691円30.0%

スタッフの時間を減らせば、人件費率は30.0%に戻ります。けれども1日に残る利益は116,691円で、値上げがうまくいった場合の122,430円には、まだ5,739円足りません。割合は元に戻っても、失ったお金は戻らないのです。

しかも、減らした3.7時間が忙しい時間帯のスタッフなら、料理が出てくるのが遅くなります。値上げした値段にふさわしい状態から、さらに遠ざかってしまいます。お客様が減らした一品を取り戻すどころか、減らされたままの状態を固めてしまうことになります。人件費の削りすぎが売上を下げる流れは、人件費を削ったら売上も落ちたにまとめました。

人を減らすより、忙しい時間へ移す

では、どうすればいいのでしょうか。スタッフの合計時間は変えずに、働いてもらう時間帯を変えます。

モデル例の店の75.0人時のうち、開店前の準備の7.0人時と、閉店後の締めの8.0人時は、売上で割らずに別に持ちます。この時間はお客様がいないので、売上と比べても意味がないからです(理由は適正人員の出し方に書きました)。比べるのは、営業時間(11〜21時)の60.0人時です。

この60.0人時を時間帯で分けると、昼(11〜14時)が18.0人時、昼すぎ(14〜17時)が12.0人時、夜(17〜21時)が30.0人時です。それぞれの売上は90,000円、30,000円、180,000円です。売上を人時で割ると、スタッフ1人が1時間でどれだけ売ったか(1人時あたりの売上)が分かります。昼は5,000円、昼すぎは2,500円、夜は6,000円です。

この店の目標は、営業時間の1人時あたり5,000円です(日商300,000円 ÷ 60.0人時)。昼すぎの2,500円は目標の半分で、暇な時間帯にスタッフが多すぎます。反対に夜の6,000円は目標を超えていて、スタッフが足りていません。忙しすぎて、追加の注文を受ける余裕がない状態です。

営業時間の60.0人時は変えずに、昼すぎから夜へ6.0人時を移す。昼11時から14時は18.0人時で1人時あたり5,000円のまま。昼すぎ14時から17時は12.0人時から6.0人時に減らし、1人時あたり2,500円から5,000円へ。夜17時から21時は30.0人時から36.0人時に増やし、1人時あたり6,000円から5,000円へ。準備7.0人時と締め8.0人時は別に持つ

そこで、昼すぎから6.0人時を減らし、夜に回します。合計は75.0人時のままなので、人件費は変わりません。昼すぎも夜も、1人時あたり5,000円になります。

夜の数字が下がったのは、スタッフに余裕ができたということです。追加の注文は、注文を受けて料理をつくる余裕があるときにしか取れません。夜に余裕ができれば、頼まれた料理を早く出すことも、もう一品をすすめることもできます。値上げのあとにお客様が減らした一品を取り戻せるのは、この余裕がある時間帯です。売上が多い時間帯に厚く人を置く考え方は、売上を作るシフトで詳しく書きました。

守るべきは、お客様に選ばれている理由

大手チェーンは、資本の力で効率化も値引きもできます。王将の開示にも、東京・大阪など10店舗でのスマートフォン注文(モバイルオーダー)の先行導入や、入店から退店までの待ち時間を短くする取り組みが並んでいます。値引きの費用も、テレビCMの費用も、726店舗で分け合えます。1店舗のお店が同じことをすれば、その費用はすべて自分のお店の利益から出ることになります。

小さなお店が選ばれている理由は、たいてい安さではありません。手間をかけた料理だったり、顔と名前を覚えてくれる接客だったりします。

安さで選ばれている店は、値上げをすると、もっと安い店にお客様が移ってしまいます。一方、料理や接客で選ばれている店は、値上げをしても、その良さが変わらなければお客様は残ってくれます。お客様が離れるのは、値上げそのものよりも、選んでいた理由がなくなったときです。

だから、値上げのときに削ってはいけないのは、お客様がお店を選んでいる理由そのものです。材料の質を落とす、手間を省く、忙しい時間のスタッフを減らす。こうした削り方は、値上げを悪手に変えてしまいます。削るところは、それ以外から探します。何を守るかを決めることは、どの時間帯にスタッフを置くかを決めることでもあります。

手作業で続けるときの限界

ここまでの確認は、レジの日報と勤怠表があれば手作業でもできます。ただ、続けようとすると、次のところで止まりがちです。

  • 値上げがうまくいったかどうかが、月末に締めるまで分からない
  • 時間帯ごとの売上とスタッフの時間を比べるには、レジと打刻の記録を手で並べる必要がある
  • スタッフの時間を移したあと、人件費率がどう変わるかは、シフトを組み終わるまで分からない
  • お店が増えると、この作業がお店の数だけ増える

とくに1つめが問題になります。客単価の1.9%の変化は、1日単位ではほとんど気づけません。 気づいたときには、1か月分の利益が消えています。

Profit Shiftなら、値上げの結果を人時と額で確かめられる

Profit Shiftは、売上目標から必要な人時を出し、その人時でシフトを組み、出退勤の打刻までつなげて見る道具です。この記事でやったことは、画面ではこう対応します。

この記事でやることProfit Shiftの画面
1日に使える人時の上限を出す「人時シミュレーター」(登録不要)。目標の売上と人件費率、平均時給と営業日数を入れる
値上げのあとの客単価を日ごとに追う「ダッシュボード」。目標 (税抜)・実績 (税抜)と並んで、客数・組数・客単価・組単価が出る
人件費率が上がった日を確かめる同じ画面の「人件費」「人件費率」。時給の人は打刻から、月給の人は月給を営業日で割った分が載る
時間帯ごとに何人置くかを決める「理想人時」の表①(配置人数から時間あたりの目標売上を出す)
置いた人数で必要な売上を見る「シフト」の日ごとの画面の最下段にある「実人数」と「必要売上」
仕込みの時間を必要売上から外す設定の「時間帯区分 (部制)」で「売上なし」に印を付ける

お客様にどんな満足を約束する店なのかを決めるのは、経営者です。Profit Shiftが引き受けるのは、その約束がお客様に届いているかを日ごとの数字で見えるようにし、届いていないときに、どの時間帯のスタッフを減らし、どこに足すかを先に示すところまでです。

シフトの作成と出退勤の打刻、売上目標と日次の集計は、無料プラン(1店舗・スタッフ10名まで)から使えます。

まとめ

  • 値上げで増えるのは売値だけで、材料費(原価)は変わらない。だから値上げは粗利を増やす
  • モデル例では、お客様が4.0%減るところまでなら、値上げ前より粗利は減らない(計算のしかたは姉妹サイトの記事に)
  • ただし、その値段を払う価値があるかを決めるのはお客様。材料費が上がったから、は理由にならない
  • 値上げの前に、選ばれる理由になっている品か、値段にふさわしい良さを説明できるか、その状態で届けられるかを確かめる
  • お客様は不満を口にせず、注文を一品減らす。その結果は客単価と1人あたりの粗利に出る
  • 餃子の王将では、値上げの1年後に客数と客単価がそろって前年を下回り、本業のもうけはほぼ半分になった
  • 同じ3.0%の値上げでも、お客様の受け止め方しだいで1日10,185円、1年で3,055,500円の差がつく
  • 人件費率を戻すまでスタッフを減らしても、失った利益は戻らない。減らすより、忙しい時間へ移す
  • 守るべきは、お客様に選ばれている理由。そこを削ると、値上げは悪手になる

1日に使える人時と、時間帯に配る前の総量は、人時シミュレーターで出せます。目標の売上と人件費率、平均時給と営業日数を入れると、1か月に使える人時と1日あたりの人時が出ます。登録もログインも要らず、入力した数字はお使いの端末の中だけに残ります。