2026年度の最低賃金は、全国加重平均で1,121円から1,177円になります。56円、率にして約5%の引き上げです。

人件費率は、およそ1.1ポイント上がります(いまの率 × 引き上げ率)。ただ、ここで止まると判断を誤ります。

見るべきは率ではなく、利益がいくら減るのかという額です。額で見ると、やることが変わります。

発効日は都道府県でばらばら

先に事実の確認です。最低賃金は地域別最低賃金といって、都道府県ごとに額が決まります。2026年9月3日に47都道府県すべての答申額が出そろい、改定後の額は10月1日から12月1日にかけて順次発効します。金額も発効日も都道府県によって違うので、全国平均の1,177円ではなく、自分の地域の額と日付を見てください。

この記事では、平均時給1,100円の店が5%上がって1,155円になる、という形で計算します。

上がるのは「最低賃金で入っている人」だけではない

「うちは最低賃金より高いから関係ない」と考える店があります。ここが最初のつまずきです。

最低賃金の近くで入っている人の時給が上がると、その少し上の人との差が詰まります。3年働いた人と昨日入った人が同じ時給になれば、3年働いた人は納得しません。だから結局、その上も上げることになります。

押し上げは1年で全部は起きませんが、翌年か翌々年には効いてきます。影響の大きさを知るには、最低賃金に近い時給の人が何人時ぶんいるかを先に数えます。 人数ではなく人時です。週2回3時間の人と、週5回8時間の人では、同じ1人でも効き方が10倍以上違います。

額で追う(モデル例)

実在の店舗ではなく、説明のためのモデルです。他の記事と同じ店を使います。

項目引き上げ前引き上げ後
平均時給1,100円1,155円(+5%)
1か月の人時(62人時 × 30日)1,860人時1,860人時
月商9,000,000円9,000,000円
月の人件費2,046,000円2,148,300円
人件費率22.7%23.9%

増える人件費は月に102,300円、1年で約123万円です。

そして大事なのはここからです。この102,300円は、そのまま利益から引かれます。

利益は「粗利総額 − 固定費」で出ます。人件費は固定費の側にあるので、人件費が増えた分だけ、何もしなければ利益がそのまま減ります。売上も人時も1つも変えていないのに、です。

1年で約123万円の利益が消える。 これが「1.1ポイント」の本当の意味です。

粗利と利益の関係は、姉妹サイトの粗利と利益の違いに詳しく書かれています。人件費を固定費と変動費のどちらで見るかは固定費と変動費の分け方を参照してください。

率を戻すのと、利益を戻すのは、まったく違う

ここが、率で止まると判断を誤る理由です。同じ「戻す」でも、何を戻すかで必要な売上が3倍違います。

何を戻すか必要な売上増(月)率にすると日商で
人件費率を22.7%に戻す450,000円+5.0%+15,000円
減った利益102,300円を戻す146,143円+1.6%+4,871円

3.1倍の差です。客単価3,000円の店なら、1日5人と1日1.6人の違いになります。

なぜこうなるか。人件費率を戻すには、分母である売上そのものを大きくしないといけません。 一方、利益を戻すのに必要なのは「粗利総額を102,300円増やすこと」だけです。粗利率70%なら、その1.4倍の売上で足ります。

そして、ここが肝心です。

🔴 利益が元に戻った時点で、人件費率はまだ23.5%です。22.7%には戻っていません。

それでも、利益は元通りです。率だけを見ていると「まだ足りない」と誤解して、要らない努力を2倍続けることになります。

粗利率は業態で違います。上の1.6%は粗利率70%での話なので、自店の粗利率で割り直してください(増えた人件費 ÷ 粗利率 = 必要な売上増)。粗利率60%なら1.9%、75%なら1.5%です。

率を戻す道と利益を戻す道の比較。人件費率を22.7%に戻すには月商を450,000円(+5.0%・日商15,000円)増やす必要があるが、減った利益102,300円を戻すだけなら粗利率70%で月商146,143円(+1.6%・日商4,871円)で足りる。3.1倍の差。利益が戻った時点で人件費率は23.5%のままだが、それで構わない

「削って戻す」は、いちばんやってはいけない

売上ではなく人時で戻す道も考えてみます。時給が1,155円のまま人件費を元の額に戻すには、人時をここまで減らす必要があります。

2,046,000円 ÷ 1,155円 = 1,771人時

いまが1,860人時なので、89人時削る計算です。1日あたり約3人時。3時間入る人を1人減らす、ということです。どこから減らすか。

  • 売上の山(昼と夜のピーク)から削ると、回転が落ちて売上が減ります。売上が減れば粗利総額も減るので、利益はかえって悪くなります
  • 谷の時間帯は、すでに下限の2人で回しています。削れません
  • 準備と締めを削るなら、作業を測ってからです。感覚で削ると翌日に響きます

削る道は、額で見ても率で見ても同じ89人時です。ただ、その89人時が売上を作っていた場合、削った瞬間に利益はもっと減ります。 ここが「率だけ見ていると危ない」もう1つの理由です。

戻し方は3つ。順番がある

  1. ラインを引き直す — 売上の山に沿っているかを見直す。同じ人時でも、置き場所が合っていなければ売上が落ちている
  2. 売上を上げる — 目標は「率を戻す5%」ではなく「利益を戻す1.6%」。届く数字にする
  3. 目標の利益のほうを動かす — どうしても届かないなら、残す利益の目標を先に見直す

順番はこのとおりです。1をやらずに2はできませんし、3は最後です。

1の手順は売上を作るシフトに、2の基準の出し方は適正人員の出し方に書きました。人時を削る判断は、この2つが済んだあとに出てきます。

10月までにやること

やることは3つだけです。

  1. 自分の地域の新しい最低賃金と、発効日を確認する(都道府県ごとに違います)
  2. 最低賃金の近くで入っている人を、人時で洗い出す(何人ではなく、何人時か)
  3. 引き上げ後の人件費で、1年の利益がいくら減るかを出す(率ではなく金額で)

3が「約123万円」のような金額で出ていれば、社内で話が通ります。「人件費率が1.1ポイント上がります」では、誰も動きません。

毎年10月に、同じ計算をやり直すことになる

最低賃金の引き上げは、この数年ずっと続いています。つまりこの計算は、毎年やり直す作業です。

  • 平均時給が変わるたびに、月の人件費と減る利益を出し直す
  • 利益の目標が同じなら、使える人時の上限も変わる
  • 上限が変われば、日ごとの必要人時も変わる

とくに3つ目が効きます。上限が変わったのに日々のラインが去年のままだと、毎日少しずつはみ出します。 月末に締めて初めて気づく、というのがいちばん起きやすい形です。

まとめ

  • 2026年度の最低賃金は全国加重平均で約5%の引き上げ。発効は10月1日から12月1日まで都道府県でばらばら
  • 人件費率は「いまの率 × 引き上げ率」で約1.1ポイント上がる。ただしそこで止まると判断を誤る
  • 増えた人件費はそのまま利益から引かれる。モデル例では月102,300円、1年で約123万円の利益が消える
  • 🔴 率を戻すには売上+5.0%、利益を戻すだけなら+1.6%。3.1倍違う(粗利率70%の場合)
  • 利益が戻っても人件費率は23.5%のまま。それで構わない。率だけ見ていると要らない努力を続けることになる
  • 削って戻す道は、その人時が売上を作っていた場合、削った瞬間に利益がもっと減る
  • 10月までに、①自分の地域の額と発効日 ②最低賃金に近い人の人時 ③減る利益の金額、の3つを出しておく

引き上げ後の人件費で使える人時を出し直すには、人時シミュレーターが使えます。目標の売上と人件費率を入れると、1か月に使える人時と1日あたりの人時が出ます。登録もログインも要らず、入力した数字はお使いの端末の中だけに残ります。